節税を考えるなら最低限知っておきたい所得税の計算構造(前編)

個人事業主の所得税節税シリーズです。
まずは、プロローグとして、所得税の節税を検討するにあたって、最低限ご理解いただきたい所得税の計算構造を簡単にまとめてみました。(前編と後編あり)
それぞれの各論の記事をご参照頂く前に、是非ご一読いただくことをお勧めいたします。
所得税の計算構造は、この記事でご解説している以上にもっともっと複雑な計算構造となっていますが、分かりやすさを重視して、一部解説の省略を行っている部分もありますので、その点につきましてはご了承願います。
目次
所得税の計算構造の概要
細かいことを言うと、損益通算や繰越控除、復興特別所得税の存在などがありますが、まずは、大きな概略イメージを頭でつかむことが重要ですので、こちらの図のイメージを頭に入れておきたいところです。
その理由は、この図の中に、所得税の節税ヒントがたくさん詰まっているからにほかありません。
それでは、上記の図のとおり、第1段階から第5段階までに区分して、所得税の計算構造を解説していきます。
第1段階:所得金額
まずは、第1段階の解説です。
この段階では、1月1日から12月31日までの間に、給与であったり、不動産収入であったりと、様々な形で受け取った収入を所得という形で計算していくことになります。
この段階のポイントは、「所得は全部で10種類ある」ということと、「総合課税と分離課税という2つの税金計算の仕組みが存在する」ということです。
所得は10種類ある
私たちが、様々な形で受け取った収入は、お馴染みの給与所得をはじめとして、不動産所得や事業所得など、全部で10種類の所得に分けることができます。
参考までに、10種類の所得にはどんなものがあるかを記載してみます。
【所得の種類】
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それぞれの所得の計算方法は10種類の所得で全て異なる
そして、これらの10種類の所得は、どれも所得の計算方法が異なるということです。
例えば、不動産所得の計算で考えると、アパートの住民から受け取った賃料収入から、アパートの固定資産税や管理会社への報酬などの経費を差し引いて不動産所得を計算することになります。
【所得の計算方法】
※代表的なものを記載していますので、例えば、譲渡所得であっても不動産の譲渡や株式の譲渡、それ以外の譲渡によって一部計算が異なるケースがありますが、あくまで大まかなイメージをつかんでいただければと思いますので、細かい論点の解説は省略させていただきます。 |
この計算方法の違いには、所得税という制度を作った国のいろいろな配慮や政策的な意図が含まれているところですので、こういった観点から考えてみても面白いものがあります。
また、この計算方法の違いに着目することで、節税のヒントになることもあります。
例えば、退職所得を見てみましょう。(退職所得の詳細は、国税庁HPへのリンクを参照)
退職所得の計算方法は、退職金から勤続年数に応じて計算した退職所得控除額を差し引き、さらにその差額を2分の1して計算します。
また、詳細は下記でご紹介しますが、退職所得は、分離課税となり、他の所得とは分けて税率を乗じることになるのです。
このため、退職金は給与でもらうよりも、かなり税金的にはお得になるのです。
これは、退職後の老後の生活資金の確保ということを考えての制度設計になっていることが理由として考えられます。
また、少し前に話題になりましたが、当たり馬券が「雑所得」になるのか「一時所得」になるのかが裁判で争われた事例もあります。
これも、雑所得と一時所得とでは、所得の計算の考え方が異なり、どちらに属するかで、所得税の負担も変わってくるためです。
ここでのポイントは、所得の種類や計算方法をそれぞれ暗記する必要はありませんが、どの所得に属するかによって所得税の金額が大きく変わるということです。
この視点は節税の観点からも重要になります。
総合課税と分離課税の違い
第1段階でのポイントの2つ目は、「総合課税と分離課税という2つの税金計算の仕組みが存在する」という点をご紹介いたします。
まずは、総合課税制度の内容を国税庁のホームページで確認してみます。
総合課税制度とは、各種の所得金額を合計して所得税額を計算するというものです。(国税庁HPより抜粋)
つまり、総合課税制度とは、10種類に分けて別々に計算した所得金額をすべて合算して、その上で税率をかけて所得税を計算するというものです。
ご存知の方も多いかとは思いますが、総合課税される所得税の税率は、所得金額が積みあがれば積みあがるほど、上昇していく仕組みとなっており、所得が多い人ほど所得税の負担も大きくなるのです。
ただ、どの所得も全て総合課税制度を適用して合算して計算するかというとそうではなく、上記でご説明した退職金などのように、政策的な意図から、あえて総合課税を行わないものもあります。
このように総合課税しないもののことを分離課税制度と呼んでいます。
一定の所得については、他の所得金額と合計せず、分離して税額を計算し(この点が総合課税制度と異なります。)、確定申告によりその税額を納めることとなります(この点が源泉分離課税制度と異なります。)。これが申告分離課税制度です。(国税庁HPより抜粋)
ちなみに、分離課税の中でも収入を受け取るときに自動的に所得税が徴収される分離課税制度のことを源泉分離課税制度と呼んでいます。
預金の利子なんかがこれに該当します。
この場合は、その時点で課税関係が完結するため、確定申告をする必要もありません。
分離課税とされる所得
ご参考までに、分離課税される所得をご紹介します。
【分離課税とされる所得】
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ここでのポイントは、総合課税は損、分離課税の方が絶対に有利だということではないということです。
例えば、不動産を譲渡した場合には、分離課税制度が適用されますが、譲渡した不動産の所有期間が5年以内であれば、税率は39.63%(住民税含む)となりますが、所有期間が5年を超えるものであれば、20.315%(住民税を含む)と半分程度となります。
この辺りの税負担を勘案して、不動産をいつ譲渡すれば良いかという判断基準の一つとしても検討されることがあります。
この点は、後編の所得税率のところで詳しく見ていきたいと思います。
第2段階:所得控除
次は、第2段階の解説です。
第1段階で所得金額の計算方法を解説させていただきましたが、第2段階ではこの所得金額から控除する所得控除額を計算することになります。
大きな流れで解説すると、
第1段階:所得金額を計算する。
第2段階:所得控除額を計算して差し引く。
第3段階:その差額に税率を乗じる。
という流れになります。
この所得控除という制度は、病気で多額の医療費がかかってしまったり、扶養しないといけない親族がいたりと、それぞれの人の事情に応じて、税負担を軽減してくれる制度のことを言います。
ということは、所得控除が大きければ大きいほど、税負担も小さくなるということです。
所得控除は14種類ある
ご参考までに、所得控除の種類をご紹介します。
【所得控除の種類】
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お馴染みの生命保険料控除から、昨年の税制改正で話題となった配偶者控除まで、なんと14種類もあります。
これらは、原則として、自分でこの所得控除が適用できると判断した上で、年末調整で手続きをしたり、確定申告で手続きをする必要があります。
例えば、今年は20万円の医療費を支払って医療費控除を受けれるというケースでは、自分で医療費控除が受けれると判断して、申告をする必要があるのです。
税務署の方から「今年は医療費控除が適用できますよ。申告しないのですか?」と聞いてくれることは、当然のことながらありません。
このため、自分で気づいて、そして、自分で原則確定申告を行わなくてはならないということです。
この点は非常に重要なポイントです。
実は知られていない所得控除
例えば、こんなケースがあった場合にも所得控除を受けれる可能性があるということをご存知でしょうか?
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さすがに、ふるさと納税はすでにお馴染みの制度ですので知らない方はいないかもしれませんが、一番上と2番目なんかは非常にレアケースです。
ちなみに、これらは雑損控除という所得控除を受けれる可能性があります。
災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを雑損控除といいます。(国税庁HPより抜粋)
これも知っているかどうかで大きく変わります。
その他にも意外と知らないものや、専門家でも漏らしやすいものをピックアップして今後の記事でご紹介いたします。
まとめ
今回は前編ということで、第2段階まで解説いたしました。
何度も繰り返しになりますが、この図のイメージをつかむことが、所得税の節税を考えるための基本となります。
今後、各論の記事を増やしていきますが、この図の中のどの段階の話かということをイメージすることで、より理解も促進されるものと思っています。
それでは、後編も引き続きご参照していただければ幸いです。