家族に給料を払えるって本当?(青色事業専従者給与の活用)

事業を手伝ってくれているうちの妻に給料ってだせないのでしょうか?
教えて君
もちろん出せるけど、きちんと押さえないといけないこともあって、一つ間違えると税務調査で痛い目に合うから気をつけてほしい。
ベテラン先生
えっ、それは怖い。是非、教えてください。
教えて君
「事業を妻に手伝ってもらっているけど、妻に給料を支払うことはできるの?」
今日はこんな疑問にお答えしたいと思います。
家族に対する給料の支給は、一つ間違えば所得税をはじめとする税金を不当に調整する行為に繋がりかねないため、かなり細かい要件が定められているのです。
そんなところにも是非ご注目いただければと思います。
家族に対して給料を支払ったらどうなるか?
家族に対して給料を支払った場合、その給料を支払う家族が同一生計か否かによって取り扱いが異なります。
また、同一生計であっても原則と特例の2パターンの取り扱い存在しますので、結局のところ、合計4通りの処理方法が存在することになります。
まずは、結論をこちらに記載します。
【家族に対して給料を支払った場合の結論】
※ただし、支給額を無条件にいくらでも必要経費として計上できるわけではありませんので、ご注意願います。 |
ちなみに、ここでポイントになるのが、「同一生計」という考え方です。
この「同一生計」という考え方については、次の頁で解説していますので、併せてご参照ください。
家族(同一生計ではない)に給料を支払った場合(原則)
まずは、同一生計ではない家族に対して給与を支払うケースです。
同一生計ではない親族とは、例えば、すでに結婚をして別々に暮らしている子供が、親と一緒に事業を手伝っているようなケースが該当します。
すでに結婚して別々の場所に住んでいて、お財布も完全に分けて生活しているのであれば、基本的には同一生計ではないと判断できます。
このように、同一生計ではない家族に対して給料を支給した場合には、その事業の必要経費とすることが可能となります。
ただし、無条件にいくらでも給与を支給して経費にできるかというとそんなことはありませんので、注意が必要です。
家族(同一生計である)に給料を支払った場合(原則)
次に、同一生計である家族に対して給与を支払った場合を考えてみます。
こちらのケースは、所得税法56条に定められていますので、実際の条文を確認してみたいと思います。
第五十六条 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。(所得税法第56条より抜粋)
上記の条文は非常にわかりにくいですが、自分の妻といったような同一生計の家族に対して給料を支払った場合の原則的な取り扱いは、その事業の必要経費に算入できないことを定めています。
これは、給料に限った話ではなく、例えば、同一生計の家族に対して支払った地代などの経費も含むことになります。
ということは、原則論で考えると、妻や子供など、同一生計の家族に対しては、いくらお給料を支払ったとしても経費に算入することができないということですね。
結構厳しい話ではありますが、ただ、原則論があれば、特例も存在しています。
家族(同一生計である)に給料を支払った場合(特例1:青色事業専従者給与)
原則論では、同一生計の家族に対して支払った給料は経費にできないということでしたが、青色申告の承認を受けていて、同一生計の家族に対して給料を支払うことについて、事前に税務署に届出書を提出している場合は、必要経費にすることが出来るという特例も存在します。
今回ご紹介するのは、こちらの方法で、「青色事業専従者給与」と呼んでいます。
細かい要件や手続きは、以下で詳しく解説いたします。
家族(同一生計である)に給料を支払った場合(特例2:事業専従者控除)
ちなみに、青色申告の承認を受けていない白色申告の事業者にも特例が存在します。
この白色申告の事業者に対する特例のことを「事業専従者控除」と呼んでいます。
こちらは、以下により、計算した金額を必要経費にすることができます。
事業専従者控除額は、次のイ又はロの金額のどちらか低い金額です。
- イ 事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者でなければ専従者一人につき50万円
- ロ この控除をする前の事業所得等の金額を専従者の数に1を足した数で割った金額
白色事業専従者控除を受けるための要件は、次のとおりです。
- (1) 白色申告者の営む事業に事業専従者がいること。
事業専従者とは、次の要件の全てに該当する人をいいます。
- イ 白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
- ロ その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
- ハ その年を通じて6月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事していること。
- (2) 確定申告書にこの控除を受ける旨やその金額など必要な事項を記載すること。
(国税庁HP「青色専従者給与と事業専従者控除」より抜粋)
なお、弊事務所では、青色申告を推奨しておりますので、事業専従者控除の詳しい解説は割愛させていただきます。
同一生計とは?
所得税の世界でよく出てくる「同一生計(生計を一にする)」という考え方ですが、この定義は所得税基本通達に定めがありますので、ご紹介いたします。
2-47 法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。
(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
(2) 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。(所得税基本通達2-47より抜粋)
誤解を恐れず、ざっくり言うのであれば、同一生計とは、「同じお財布で生活している」というイメージで考えると分かりやすいかと思います。
基本的には、同じお財布で生活しているとは、一緒に暮らしている家族ということになるのですが、上記の通達にもある通り、一人暮らしをしている場合でも親の仕送りで生活している大学生なんかは、一緒に暮らしていなくてもお財布は同じものだとして、同一生計に含まれます。
逆に言うと、一一つ屋根の下で暮らしていても、二世帯住宅などのように、食費などの生活費をきっちり区分けして、別々のお財布で生活しているとされるのであれば、同一生計には含みません。
この同一生計の線引きは、ばっちりと区分けできるようなものではなく、その時々の個別の事実関係によって判断されますので、この点については、税理士に確認していただきたいところです。
特に所得税の世界では、同一生計かどうかで取り扱いが変わる規定が山のように存在します。
今回の家族に対して給与を支払う場合もそうですし、お馴染みの扶養控除や医療費控除だって、この同一生計という考え方が用いられています。
これを間違うと非常に恐ろしい話になりますので、ご注意ください。
青色事業専従者給与の適用要件
青色事業専従者給与の適用要件は以下のとおりとなります。
- 青色事業専従者に対して支払われた給与であること
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を管轄の税務署に提出していること
- 上記の届出書に記載されている方法により支払われ、かつ、その記載金額の範囲内であること
- 支払われた金額は、労務の対価として相当であると認められること
なお、詳しくは、こちらの国税庁タックスアンサー「青色事業専従者給与と事業専従者控除」をご確認ください。
青色事業専従者とは?
上記の適用要件に出てくる「青色事業専従者」とは、次の要件に該当する人を言います。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者、又は、その他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専従していること
3つ目の要件の補足ですが、平成29年の私のように、7月に開業したような場合で、開業した平成29年から妻に青色事業専従者給与を支給したいケースを考えてみます。
3つ目の要件を満たすためには、開業した7月~12月までの期間のうち、2分の1(3か月)以上を妻が私の税理士事務所の手伝いに専従していればOKということになります。
青色専従者給与の適用を受けるための手続き
青色事業専従者給与の適用を受けるためには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を一定の期日までに、管轄の税務署に提出する必要があります。
管轄の税務署の確認方法
税務署の管轄は、こちらの国税庁HP「国税局・税務署をしらべる」より確認することができます。
青色事業専従者給与に関する届出書とは?
「青色事業専従者給与に関する届出書」はこちらの国税庁HPより印刷することができます。
ちなみに、現物はこちらで、A4で1枚ものとなっています。
青色事業専従者給与に関する届出書の提出期限に注意
そして、最も注意すべきは、この青色申告承認申請書の提出期限です。
原則は、青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日までに提出することとなっていますが、その年の1月16日以降に新たに事業を開始した場合や、新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2月以内に提出しなくてはならないと定まっています。
詳細は、こちらの国税庁HPでご確認願います。
※この点は、特に細かい定めとなっていますので、出来れば専門家に相談したいところです。後々になって提出期限を過ぎていたということが判明してもどうすることもできませんので、本当に要注意です。
青色専従者給与の注意点
最後に、何点か青色事業専従者給与を適用するにあたっての注意点をご紹介します。
配偶者控除や扶養控除とダブル適用できない?
青色専従者給与の支給を受ける場合、年間の給与金額を103万円以下に抑え、配偶者控除や扶養控除の適用を受けようと思っても、ダブル適用はできませんので、注意が必要です。
つまり、青色事業専従者給与の適用を受けるか、配偶者控除や扶養控除の適用を受けるかのいずれかの選択となります。
青色事業専従者給与は労務の対価として適正でなければならない?
青色事業専従者給与の適用要件の一つとして、「支払われた金額は、労務の対価として相当であると認められること」というものがありました。
これは、青色事業専従者給与はいくらでも必要経費として認めるというものではなく、労働の対価として妥当な金額しか経費に認めないといものです。
この妥当な金額がいくらかというのは非常に迷うところで、具体的な金額は条文上には定めがなく、個別の事情に照らしての判断となります。
しかし、「もし、この仕事を全くの第三者に依頼したとすれば、いくらで依頼するか。」ということを基準に考えると、妥当な金額の参考になるものと考えられますが、出来れば、事前に税理士と相談をしておきたいところです。
また、他の従業員と同様にタイムカードや出勤簿などで勤務の状況を記録するなど、勤務実態を証明出来る根拠資料を残しておくことも重要といえます。
仮にですが、後々の税務調査などで、妥当な金額を超えたと判断された場合は、その超えた部分の金額は、専従者に対する贈与として扱われますので、注意が必要です。(参考:国税庁HP「青色事業専従者が事業から給与の支給を受けた場合の贈与税の取り扱いについて」)
専従者給与の未払いは可能か?
青色事業専従者給与については、原則、未払いを認めていませんので、実際の支給が必要となります。
ただし、資金繰りの都合など、やむを得ない事情で短期的に未払となってしまうようなケースについては、きっちりと未払計上を行い、短期的に精算することで必要経費とすることを認めています。
事業に専従しているってどういうこと?
青色事業専従者給与の適用要件の一つとして、「その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専従していること」というものがありました。
この専従とは、「専ら従事している」ということであり、例えば、他に仕事を持っていたり、学生であるようなケースでは、一部の例外を除き、青色専従者には基本的に認められないこととなりますので注意が必要です。
専従者給与を増額したいときはどうすればいい?
例えば、青色事業専従者の仕事内容に応じて、支給額を増額したいようなケースも出てくるかと思います。
この場合、管轄の税務署長に「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を提出する必要があります。
この届出書の提出期限は、「遅滞なく提出すること」と定められており、明確な期限はありませんが、出来ればすぐにでも提出したいところです。
ちなみに、増額する場合の注意点として、青色事業専従者給与を増額する理由やその増額分の根拠、そして、なぜこの時期に増額するのかという理由付けを明確にして、出来れば、書面などの分かるものできっちりと記録を残す必要があります。
これは、後々の税務調査などで、青色事業専従者給与の増額は妥当なもので、一時的に利益が出たからということだけでの利益調整を目的としたものではないということを明確に示すための理論武装のためです。
この点についても、是非、事前に税理士と相談することをお勧めします。
まとめ
青色事業専従者給与を活用することで、大きな節税効果が望めますが、当然のことながら、家族に対する給与であるため、細かい要件や手続きが定められています。
後々の税務調査においても、大きな論点の一つになる可能性があるため、そのための事前の準備が重要になります。
効果は大きいものの、後々、大きなトラブルとなることがない様に、是非、税理士と相談して対応することが望まれます。