売れない在庫を処分して節税する?(棚卸資産廃棄損の活用)

売れ残った在庫って処分するにも処分できないんですよねぇ。
教えて君
気持ちはわかるけど、在庫を抱えておくことにもコストはかかるんだよ。しかも、処分することで、節税効果も出てくるし。
ベテラン先生
分かってはいるんですが・・・。
教えて君
不要な在庫を思い切って廃棄することで、資金繰りに効果がある節税を行うことができます。
「とはいっても、捨てるのはもったいないよね。また、使うかもしれないし。」
といった声も聞こえてくるかもしれませんが、必要のないものを保管するのだってコストはかかります。
今日は、棚卸資産の廃棄による節税策をご紹介いたします。
目次
棚卸資産廃棄損の概要
棚卸資産廃棄損を計上するにあたっては、ややこしい適用要件や法律上の定められた手続きは必要ありません。
年内に倉庫に眠っている在庫をきっちりと処分して廃棄してしまうこと。ただそれだけです。
棚卸資産の廃棄の効果
どうしても、せっかくお金をかけて仕入れたものだしなぁ、そして、いつか売れるかもしれないしなぁということで、なかなか滞留在庫の処分に踏み切れない方も多いはず。
在庫については、〇年滞留すると廃棄するかセールで処分するといったように内部ルールを設けるで、古い在庫が倉庫の奥底に眠ってしまわないような工夫も必要だと言えます。
実は、思い切って処分を行うことで、このようなメリットが生じることになります。
お金を使わず節税できる
在庫を廃棄する節税策は、お金がかからない節税策として、資金繰りには大きなプラス要因となります。
場合によっては、廃棄業者に対する処分コストはかかるかもしれませんが、お金がかかると言えばそれくらいのものでしょう。
滞留している在庫を廃棄することで、「廃棄した在庫×税率」分だけの節税効果が出てきますので、節税効果の分だけ資金繰りにはプラス要因となります。
経営セーフティー共済への加入などのようにお金をかける節税策と違って、資金繰りにプラスとなる節税策となりますので、お勧めの節税策となります。
その後の保管・維持コストを節約できる
滞留在庫を保管して維持することにだってコストはかかります。
一番大きいのは倉庫代だと思いますが、滞留在庫をためないための仕組みを作ることで、もうワンサイズ小さな倉庫でも良いかもしれません。
お金をかけて購入した在庫を捨てるなんてもったいないという考えもわからないでもありませんが、滞留在庫にも保管コストや維持コストはしっかりとかかっているということを認識したいところです。
管理に要する時間(人件費)を圧縮できる
保有している在庫の量が増えれば増えるほど、在庫を管理する従業員の手間も増えることになります。
在庫をすっきりと圧縮することで、従業員の在庫管理に要する時間を削減し、残業代の削減や、さらには、他の業務への時間の有効活用にもつながります。
銀行も不良在庫のチェックは行っている
融資を受けている場合、毎年、確定申告が終われば、銀行から必ず、決算書をくださいと言われるはずです。
もちろん、銀行の視点で決算書を精査することになるのですが、不良在庫がないかということを棚卸資産の回転期間という指標を用いて、同業と比較したり、過去の推移を見ながら不良在庫の有無を確認しています。
滞留在庫が溜まってしまうと、銀行目線での評価にもマイナスの影響が生じることを覚えておきたいところです。
棚卸資産の廃棄の注意点
滞留在庫の処分には、多くのメリットがありますが、一方で、在庫は税務調査での大きな論点にもなるところです。
このため、滞留在庫を処分する場合には、最低限、以下の点には注意したいところです。
廃棄理由を明確に記録しておく
税務調査での目線として、その年中に本当に廃棄したのかということを厳しくチェックされますので、なぜこのタイミングで処分したのかという理由についても問われる可能性が高いと言えます。
この点については、内部記録や内部ルールを明確に文章で保管しておくことが望ましいと言えます。
その年度中に廃棄したことの証明を残す
そして、次に、本当に在庫を廃棄したということを確認できるためのエビデンスをきっちりと残しておくということです。
廃棄業者からの請求書や領収書を残すだけでなく、廃棄したもののリストを作って、捨てたものを写真にとる。
さらには、廃棄作業時のトラックへの積み込み作業を写真に残すなど、ここまでやるのというくらいに念には念を入れて対策をしておきたいものです。
棚卸資産を廃棄することになると、金額が大きくなるケースも多いですし、また、在庫は不正行為にも使われやすいということもあり、税務調査においては特に厳しく確認される可能性が高いと言えます。
また、年末ぎりぎりの廃棄の場合、本当に年内に廃棄が完了したのかという目線も入りますので、あまりぎりぎりにならないように余裕をもって対応したいところです。
在庫の評価損計上は危険がいっぱい
実は、在庫を廃棄しなくとも、特別な理由があれば、評価損という形で経費への計上も認められています。
しかし、税法という法律は、会計の考え方と異なり、実際に廃棄したり売却したりする前に、評価損という形で経費にしてしまうことを非常に嫌います。
評価損を絶対に認めないということではありませんが、評価損として経費に計上するためには、厳格な定めがあります。
具体的に以下のような場合においてのみ、評価損の計上が認められています。(所得税法施行令104条、所得税基本通達47-22、47-23)
- 災害で在庫が損傷した場合
- 季節商品の売れ残りで、通常の方法で売れないことが明らかである場合
- 新製品が発売されたことにより、通常の方法で売れないことが明らかである場合
- 破損、型崩れ、棚ざらし、品質変化等により、通常の方法で売れないことが明らかである場合
しかし、棚卸資産の価額が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情のようなケースでは、認められないので注意が必要です。(所得税基本通達47-24)
このように、廃棄することなく、評価損で計上しようとすると、非常にハードルが上がりますので、やはり、思い切って廃棄してしまうか、処分セールで売ってしまう方が安全だと言えます。
まとめ
経営セーフティー共済への加入などと違って、棚卸資産の廃棄はお金がかからない節税策として有名であり、是非とも検討したい節税策の一つです。
また、節税につながるだけでなく、その後の維持・管理コストの削減に繋がったり、または、従業員の作業時間の圧縮にもつなげることができ、経営には非常に良い影響が出ると言えます。
しかし、当然、将来の税務調査に備えて、エビデンスをきっちりと残すということを徹底し、税務調査時のリスクを軽減することも同時に念頭に置いておかなくてはなりませんので、ご注意願います。