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一括で支払って経費を増やす?(短期前払費用の特例の活用)

 
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今年は、いい感じで大型の受注が獲得できたので、来年の経費も今年に計上したいくらいですよ。

教えて君

おっと!それは、節税ではなく、脱税になるから絶対に辞めてほしい。とはいえ、ルールを満たせば、来年分の経費が今年の経費になることがあることもあるんだ。けど、ずっと継続しなくちゃいけないという縛りもある。

ベテラン先生

「今年はたくさん利益が出そうなので、来年の家賃を先に払って今年の経費にしたいのですけど、やっぱり無理ですかねぇ~。」

なんて聞かれることもあったりしますが、実は、短期前払費用の特例というものを活用することで、本来なら来年の経費となるものを今年の経費にすることも可能になる場合があります。

今回は、そんな短期前払費用の特例をご紹介します。

短期前払費用の特例の概要

会計の原則では、家賃のように継続的にサービスの提供を受けるようなものは、お金の支払いにかかわらず、サービスの提供を受けた段階で経費に計上しなくてはなりません。

例えば、1月分の家賃を12月に支払ったとしても、12月中にはまだサービスの提供を受けていませんので経費に計上することはできず、確定申告では前払費用として資産計上し、翌年の1月になってやっと経費に計上することができるのです。

しかし、一定の経費については、一年分までの前払いについて、その年の経費にすることを認めています。

それが、短期前払費用の特例です。

短期前払費用の特例の適用要件

短期前払費用の特例の適用要件は、以下の全てを満たすこととなります。

  • 継続的に役務の提供を受けるための支出であること
  • 前払いしたときから1年以内にサービスの提供を受けること
  • その年に支払いが完了していること
  • 支払った年の経費に計上していること
  • 翌年以降も処理を継続すること
  • 等質等量のサービスであること
  • 収益と費用が対応するものではないこと

この特例の根拠となるものは、以下の所得税基本通達となります。

前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。(所得税基本通達37-30の2より抜粋)

適用を受けるための手続き

特に書面を提出したりということはなく、上記の適用要件を満たすことで適用が可能となります。

短期前払費用の特例の注意点

簡単に見えるこの特例ですが、実は奥が深く、使い方を誤るとデメリットも多く、注意が必要です。

こちらでは、以下に注意点をまとめてみました。

翌年以降も継続する

適用要件のとおり、今年年払いをしたのであれば、来年以降も年払いを行い、この特例を適用しなくてはならないということです。

つまり、今年は利益が出たからこの特例を使うけど、翌年はそこまで利益が出なかったので、特例は使わないという都合の良い使い方はできないということです。

そもそも、この規定は、節税を推奨してあげるためにできたものではなく、重要性の乏しいものについては、わざわざ前払費用として資産計上する手間を省き、支払いベースで簡便的に処理をしてもいいよという趣旨でできたものですので、誤解がないようにしたいところです。

このため、支払時期を調整することで、利益を調整して、うまく節税しようなんてことが認められるはずがありません。

もし、そんなことをすると、決算書の費用科目の金額が前年対比で大きくぶれますので、税務調査に来てくださいと誘っているようなものですので、注意してください。

効果は初年度だけ、トータルで見ると経費計上額は変わらない

短期前払費用の特例効果は初年度だけになるということです。

初年度は、年払いをすることで12か月分以上の経費を計上することができますが、翌年以降も年払いを継続するのであれば、翌年以降は12か月分ピッタリしか計上することはできません。

そして、契約が終わる年は、前払いをしている関係から、12か月分未満の経費計上となってしまいます。

例えば、10年間の契約を考えるとこんな感じ。

  • 1年目:12か月分以上の経費を計上
  • 2年目から9年目:12か月分の経費を計上
  • 10年目:12か月分未満の経費を計上

結局、トータルで見ると、原則通り処理をしようが、特例を使おうが10年分の経費を計上することに変わりはなく、特例を使うことで、本来は来年以降に経費になるものを初年度だけ先行して多く計上できるという特例なのです。

税理士に対する報酬は対象外

この特例は、どんな経費でも使えるわけではありません。

ポイントは、適用要件のとおり、等質等量のサービス」でしか適用することができません。

具体的には、地代家賃や保険料なんかがメジャーなところです。

一方で、税理士の毎月の顧問料は、この特例の対象外となるので、注意が必要です。

顧問料は毎月の金額は一定でも、サービス内容は毎月同じ内容のサービスとは言えず、相談が多い月もあれば、そうでない月もあるでしょう。

この特例の奥が深いところは、どんな経費でも対象になるわけではないということです。

この点も注意が必要です。

収益と対応する費用は使えない

この特例は、「等質等量のサービス」であれば、適用が可能であると上記で触れましたが、ただ、収益と費用が対応するようなものは、対象外とされています。

例えば、地代家賃であっても、マンションを借りて、誰かに転貸しているようなケースです。

マンションを借りる経費だけ特例を使って先行して費用計上して、転貸による収入は毎月計上するなんてことは認めてくれませんので、注意が必要です。

このように、収益と費用が対応するものは、等質等量のサービスであっても特例を使えませんので、注意してください。

契約書も年払いになっているか確認する

この特例を適用する前には、支払いを行う契約書も事前にチェックしておきたいところです。

それでは、上記で確認した所得税基本通達をもう一度確認します。

前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。(所得税基本通達37-30の2より抜粋)

この通り、上記の通達には、「一定の契約に基づき」支出した費用である必要があるため、契約書と実際の支払いに齟齬がないか見直す必要があります。

実際に、過去の判例では、この点に不備があり、短期前払費用の特例を適用できないとした事例もありますので、必ず、契約書上でどのように定められているかということを事前にチェックしておきましょう。

資金繰りが苦しい企業は使ってはいけない

例えば、月10万円の保険料を一年分前払いするとすれば、年間120万円になります。

仮に、所得税率20%、住民税率を10%と仮定すると、特例の適用によるその年の節税効果は、120万円×30%=36万円となりますが、資金繰りの観点からは、先に120万円を支払ってますので、差し引き84万円の持ち出しとなってしまうのです。

上記でも記載のとおり、翌年以降も年払いを継続する必要があるため、この取引が続く限り、資金繰りは悪化したままということになります。

税金が減ったはずなのに、お金が残っていないという原因は、この短期前払費用の特例を利用したことが大きな原因となっている可能性がありますので、資金繰り面には要注意です。

まとめ

所得税基本通達を読むと簡単に思えてしまうのですが、実は奥が深く、誤って適用していると、税務調査で大きな痛手を受けることになります。

そして、節税効果としても今年払うべき税金を来年以降に繰り延べていることにほかならず、資金繰りも悪化させてしまいます。

また、本来の趣旨からして、節税を推奨するためにできた規定でもありませんので、節税目的で粗い処理をすると、税務調査において論点となることも十分に考えられます。

ただし、今年だけ特別な所得が発生して、税率が跳ね上がっているようなケースでは、税率が跳ね上がった年にこの特例を使って先行計上を行い、課税を繰り延べることで、税率差分だけの節税効果を生み出すことができる可能性もあります。

こういったメリット・デメリットを踏まえた上で、ご検討いただければと思います。

 

 

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