保育士さん向けに借上社宅制度を導入する場合に注意しておきたい税務のはなし

保育園を運営する場合、保育士さんの採用でご苦労をされている経営者様も多いのではないかと思います。
このため、保育士さんの採用に繋げるため、自治体の補助金などを活用して、保育園で借上社宅制度を導入することもあるかと思います。
本日は、そんな時に、注意しておきたい税務のはなしを解説したいと思います。
従業員の社宅家賃を全額負担しても問題ないの?
保育士さんを含む従業員の社宅家賃を保育園で全額負担してしまうと、税務上はその従業員に対して現物給与を支給したという取扱いになり、従業員の側で一定の金額を給与として課税されてしまうことになるのです。
このため、従業員に対して借上社宅を提供する場合には、従業員から一定の金額を自己負担額として給与天引きなどで徴収する必要があります。
社宅に関する税務上の取扱いについては、こちらの記事でも解説していますので、併せてご参考にしていただければと思います。
自己負担額はいくら徴収すればよいの?
それでは、どのくらいの金額を従業員から徴収すればよいのかという話になりますが、国税庁のホームページから以下に抜粋します。
使用人に対して社宅や寮などを貸与する場合には、使用人から1か月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)以上を受け取っていれば給与として課税されません。
賃貸料相当額とは、次の(1)~(3)の合計額をいいます。(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%使用人に無償で貸与する場合には、この賃貸料相当額が給与として課税されます。
使用人から賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合には、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が、給与として課税されます。
しかし、使用人から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、給与として課税されません。(国税庁タックスアンサー「№2597使用人に社宅や寮などを貸したとき」より一部抜粋)
ちなみに、上記の算式にある「固定資産税の課税標準額」の調べ方については、こちらの記事を併せてご参考ください。
もちろん、上記の算式は、税法上、給与として課税されないために最低限従業員から徴収しないといけない金額となりますが、その金額以上を従業員から徴収しても税法上は問題ありません。
借上社宅制度が従業員さんにとってメリットが大きい理由
上記の算式で自己負担額を計算してみると、一般的な家賃相場のだいたい10%~20%程度になるというところがポイントになります。
本来であれば、従業員自身が家賃の全額を負担しなくてはならないところ、借上社宅制度を利用することで家賃の10%~20%程度の負担ですみ、しかも、保育園側で負担した部分は、従業員の所得税や住民税の課税対象とならず、また、社会保険料の算定対象にもなりません。
結果として、従業員自身の手元に残るお金を増やすことができるというカラクリなのです。
まとめ
特に、補助金などの制度を活用できる場合、国や自治体が負担してくれるから従業員から自己負担額を徴収しなくても良いと感じてしまいがちです。
ただ、全額を保育園負担とし、従業員の自己負担額はなしとしてしまうと、その後の税務調査で指摘されてしまう可能性もあるのです。
このため、借上社宅制度を導入するにあたっては、事前に税務上の観点からも検討を加えて頂ければと思います。